お侍様 小劇場 extra

     “迷子の迷子の…” (お侍 番外編 36)
 


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 フランスのリセエンヌからのホームステイかと思わせるような見目を裏切って、ご両親を初めとする一族郎党、生粋の日本人だという話で。高校へと進学するまでは、木曽の山間に暮らしていたという。そんな片田舎の生まれとは思えぬような、垢抜けた風貌をしているが。言われてみればそれも有りかなと思わせるような、ひょんなところで…ちょっぴり人付き合い慣れしていない風情を感じさせもする。そんな不思議な青年ではある。

  島田 久蔵。

 今時には珍しいほど古風な名前だが、彼の家では代々の長子が幾つかある中から引き継いで来た、由緒ある代物なのだそうで。そんな古風なしきたりの中に育まれた存在な割に、髪は金色だし瞳は赤く、肌は日本人離れした白さが眩しいほどで、周囲の少女たちよりも眸を引くくらい。金髪白面、玲瓏透徹。鉄線で描いたかのような目鼻立ちの、すっきりと端正な面差しに、そんな細おもてがバランスよく映える、しなやかな痩躯は、さながら若木のように嫋やかで。華奢とまではいかないが、屈強で雄々しいという印象はまるでなくの、すらりとした腕に脚。バレエかモダンダンスでも嗜んでいるような体格で、だのに、実は剣道部の猛者だそうで。防具を身につけ、竹刀を握れば、それはそれは機能的に動く四肢を駆使し、定められたスペース内を、縦横無尽、自在に駆けたその末に。どんな剛剣相手でさえ掻いくぐってのたいそう軽やかに、鮮やかな一本を立て続けに奪ってしまえるという、希代の剣豪との呼び名をほしいままにしているのだとか。とはいっても、

 「…。」

 綿毛のような額髪の陰から ちらりと上がった眼差しは、常に鮮烈な気魄で尖っているという訳でもなく。それでも、そんな資質を育んだ生活がよほどに厳しいそれだったものか、日頃から感情表現も薄く、寡黙で無口で無表情。声を上げて笑っているところや、激高のあまりに怒鳴っているところなぞ、誰一人として見たことがないという。上等な紅玻璃のような澄んだ瞳、すべらかな頬は陶器のようだし、細い鼻梁は繊細可憐。その意志の強さを反映しているものか、肉薄だがきゅうと引き締まった口許は、しっとり瑞々しくて柔らかそうでもあって。高貴な華人の如くに麗しい顔容、微笑ったらさぞや綺麗なことだろにと、女子の人でなくとも気になるところ。だっていうのに、当の本人はといえば、

 「……。」

 面白くもないのに笑えるか…だなんてな、そこまで臍曲がりなことを思っている訳ではないらしいのだが。笑い方を知らぬか、それともお顔の筋肉だけ鍛えるのを忘れたか。鉄面皮という言葉は彼のためにあるのではないかと思わせるほど、これがとにかく滅多に笑わない。他人を小馬鹿にしたり上から目線でいる訳ではないけれど、卑屈になることは一切ないまま、常に胸を張ってる真っ直ぐな態度は、それだけで“むかつく”と感じる下衆どもには、格好の八つ当たりの対象にもなろうところだったものが。竹刀を手にしていなくとも、見事な体術の応用で、避けながらの同士討ちや鉢合わせへと誘い込み、束になってかかって来たここいらの不良どもを、ものの数分であっさり畳んでしまって以来。その筋の連中は、あの金髪にだけは関わるなという暗黙の了解を必死で守っている模様。そんな負け方はみっともないでしょうからねぇ。
(ぷくく…)

  ……まま、それは余談だが。

 見目姿だけじゃなく態度までもが凛とした、今時には稀な、若き“もののふ”の彼だけれど。それじゃあ、と。そうまでも古風な気質から、常に泰然としている石部金吉かといやあ…さにあらず。

 『もう帰られるのですか、先輩。』
 『…。(頷)』

 放課後の練習を勝手に…もとえ、自主的に切り上げての早上がり。これでも一応は体育館に併設の道場まで来て、竹刀での素振りと打ち込みを体が温まるまでこなし、後輩への体さばきや脚さばきの模範を務めてからという、最低限のことはしてからの帰宅になっただけマシな方。早朝練習は欠かさないし、対外試合や交流戦へもちゃんと参加するのでと、顧問の先生や上級生の部長殿も、仕方ないかと見て見ぬ振りで通している“早じまい”。

 ―― バイトでもしているのか、それとも自営業をなさっておいでのお手伝い?

 下級生たちにしてみれば、何の説明もないままだったこともあり、何でだろうという疑問符の山だったのだけれども。

 『…ああ、あれはな。』

 訊かれた先輩方は大概 少々困ったようなお顔をし。部の戦績には響いてねぇんだし、とんでもなく素行が悪い訳でもなし。奴個人の問題って領域の話だから、そうそうほじくるなと、何とも曖昧な言いようをなさるばかり。そうこうするうち、インターハイだの国体だの全国大会が目白押しとなるシーズンを迎え。夏合宿があっての…それからやっと、一年生部員にも、何とはなく見えて来るものがあって。

  ―― きれいなお兄さんは好きですか?

   美容電器のCMじゃあないけれど、つまりはそれが唯一で絶対な答え。

 例えば大きな大会で、勝負がついたその途端、表彰式をすっぽかす勢いで客席へ猛ダッシュをかける彼を、兵庫先輩が こらこらと後ろ襟を掴んで引き留めていると。それまでは冷徹な剣士だった彼を、唐突にここまで利かん坊にしてしまう“原因様”のほうが、祝福にと歩み寄って来て下さったり。早朝練習の最中のロードワークの途中、忘れ物を持って来て下さったお兄様だったりするのへ、姿も見えぬうちから不意に歩調が変わってしまう彼の反応のよさには、呆れ半分、先のような言いようが ついつい洩れもするというもので。

 『確かにお綺麗ですものねぇ。////////』
 『………。(〜〜〜)』
 『……岡本、後ろ後ろ。』

  クセのないさらさらとした金絲のような髪は涼しげで、
  水色の瞳は光を凝縮したもののように清冽で。
  だのに、それを細めての柔らかな笑みは、
  何とも言えない暖かみを帯びていて……。

 部のマネージャーで学園のマドンナでもある美人を、人もうらやむ“カノ女”にしていること、自慢にしている副部長さんでさえ。そのお兄様が間近に寄れば、ついついしゃちほこばってしまうというから、どれほどの魅惑をおびておいでの存在かは、推して知るべし。傍らに寄れば、物のたとえではなくの ほわりといい匂いがしそうなほどに。品があっての繊細莞爾。華のような、それでいて限りなき包容力を感じさせもする、奥深くも暖かい飛びっきりの微笑を目の当たりにし。まだ十代という蓄積足らずの青二才に、どのような太刀打ちが出来ようものか。そして、だからこそ。あのお兄様の元へ帰りたいだけなのだなと、皆して何とはなく納得してしまったところが、

 『…お前らまで感化されててどうするか。』

 部長が呆れたのは言うまでもない。
(苦笑) というわけで、お家では行儀も善くって大人しい、至って“いい子”な久蔵殿だが、学校では思った通り(笑)少々破天荒な素行も発揮しているらしく。だがまあ、周囲へとんでもないご迷惑をかけているということでもなし。何より、根は素直で正義感も強く、いざという時には頼りになる気丈夫で。綺麗なお兄様が大好きなあたり、愛らしいものへの好意を示すことにも さほどやぶさかじゃあない、瑞々しいお年頃の好青年には違いなく。今だって、

 「?」

 その気配を察知してからこっち、そのまま捨て置けないなと感じたからこそ。ずっとずっとついて来る気配へと…後ろ髪でも引かれるか、少し進んでは立ち止まり、肩越しに相手の様子、伺ってしまっていたりもするのであって。

 「…。」

 秋も深まり、暦の上では既に冬。そろそろ、どんなに早く切り上げてもこちらに着く頃には陽が暮れてしまう、そんな頃合いになるのも間近い時期。コートを羽織るには大仰だが、それでも、制服のブレザーとその下に着込むセーターだけでは、ちょっぴり心許ない日も増えて来て。出掛けに兄上が“薄手のマフラーを巻いてゆけ”と口うるさく言い始めてもおり。昼間の陽射しから受けるいくばくかの暖気も去っての、そんな冷えようが再びじわじわと垂れ込め始めている、人通りのない住宅地の街路の片隅に。ひょいと振り返ると、やはり着いて来ていた小さな影が、町内会長の本多さんチの、サザンカの生け垣にしがみつくようにしてこちらを伺っていて。

 「……。」

 日頃からも、この時間帯はあまり通る人のいない道だ。一応は2台の車が擦れ違えるだけの幅を取った舗装道ではあるが、この先には彼の自宅と、お隣さんの車輛工房があるだけだから、その二軒を目指す訪問者ででもない限り、人影や車はまずは入っては来ない筈。なので、

 「おい。」

 スポーツバッグを提げていた肩越し、背後の誰かへ声をかけたのは。ウチへの客人なら案内してやればいいのだし、そうではないならないで、やはり捨て置きは出来ないとようよう感じたから。

 「…。」
 「怒ってはないから、来い。」

 無愛想な自分なので、相手によっては威圧を感じるらしいことも、何とはなく判っている久蔵だったので。先にそうと言ってやったのも、彼にしてみりゃなかなかの気遣い。だってそうせざるを得なかったほど、

 「…。」

 久蔵が肩越しに振り返って見据えた相手は、そりゃあそりゃあ幼い子供であったから。よくは判らないが、背丈が久蔵の腰までも無さそうで、それだけを見ても、まだまだ学校には上がってなかろうと思わせるほどに小さい子供。ちょっぴりおどおどと身をすくめて見えるのは、何かに怯えているからだろか。だが、久蔵が怖いのならば何もついてくるこたない筈だ。この結構長い一本道に入る取っ掛かりから、ずっとずっとその気配が着いて来ていて。迷子なのなら捨て置けないかと振り返ってみたのだが、

 「…どうした?」

 いかんせん、久蔵には“自分よりも幼い子供への構い方”というスキルがないのが難点で。威圧感みなぎる、見るからに猛者だということはないけれど、氷のように冴えた表情を緩めもしないお兄さんへ、迷子になって心細い子供がひょいひょいとついてくものだろか。いや、此処までは何とか着いて来たらしかったが、それにしたって“ないよりまし”というレベルかも。人なら誰でもいいとまで、独りぼっちが心細かった子なのかも。

 「……。」

 ただただじっと立ち尽くして、幾刻か。自分は平気だが、相手が随分と薄着なのが気になって、久蔵の細い眉がひくりと震える。えっとえっと、こういう時はどうするのだろ。小さい子供にもたいそう好かれる七郎次は、いつもどうやって接していたか。えっと…。

 「…お、おいで。」

 ちゃんと向かい合うようにと振り返り、カバンを足元へ降ろしながら、そろりそろりと身を屈め、単調ながらもそんな声を掛けてみる。こっちからわしわしと近寄ってったら怖がるばかりだ。
『公園の鳩がそうでしょう? 自分たちを踏み潰せるような大きな何かが するするって近寄って来たら、そりゃあ怖いに決まってます。だから、慌てて飛んでってしまうでしょう?』
 買い物先で誰かが連れてた子犬、道端で見かけた猫、そういったものへの接し方がそれは上手な七郎次だったのを思い出し、彼がするようにと真似てみる。すると、

 「…。」

 こちらをじっと見つめる眼差しはそのまま、10mほど間をおいていた幼子が。しがみついてた生け垣から手を離し、小さなあんよをそろそろと進め始める。あたりが黄昏間近い空気になっているからか、生なり色にも見える服装は、どこぞかの小学校の体操着を思わせるほどに簡素なそれで。いかにも小さく細っこい肢体に、それしかまとっていないのが、見ていて何とも寒そうでしょうがない。どれほど警戒しているものか、おずおずとした足取りでいたものが。やはり寒かったせいだろか、ふと、ふるるっと身を震わせると そこからは早く。一気にパタパタパタッと駈けて来て、緩く広げていた久蔵の両腕の間、懐ろへまで ぽすんっと飛び込んで来た意外さよ。そして、

 「…っ。」

 相手の態度の唐突な変わりようへより、あっと言う間に間合いへ入られたほど反射で負けた…と、そこが妙に口惜しかったらしい、こっちもこっちな次男坊。とはいえ、

 「〜〜〜。」
 「寒かったのだな?」

 しきりと頬擦りをしてくる小さな存在が、これで寒さをしのげるのならと、安堵の気持ちを覚えたほうが大きくて。同じクラスの利吉くんや、弓道部の矢口くんが居合わせたなら、腰を抜かして驚いたかもしれないほど、そりゃあ柔らかく微笑って見せる彼だったりし。おっ母様、あなたの坊やはちゃんと優しい子に育っておりますよ?

 “それにしても…。”

 相手が懐ろへと頬擦りをして来るのに合わせ、こちらの頬へと当たるのは、ふわふかな蜂蜜色の綿毛であり。制服の襟元へぎゅうと掴まる小さな手の白さや、さっきからずっとじ〜っとこちらを見つめていた瞳の、玻璃玉のような赤さといい、


  “……どこかで見たような気がするのだが。”

   ………………えっとぉ。


 久蔵くんは、例えば道場には型を検分するための壁一面という姿見もある環境に身を置きながら、滅多に鏡で顔をまでは見ないらしいです。そろりと回した腕の中、ちょっとでも身を押せば指先がすぐ骨に当たるようなほど、まだまだ柔らかい肉付きの、何とも可憐な幼子で。やはりすっかりと冷えきっているのが、何とも痛ましく。
“…。”
 あとちょっと、もう門柱が見えているほどというわが家へと、このまま連れてってやろうと思った。家に着けば七郎次がいる。暖めてやったり、お腹は空いていませんかと話しかけたりといたわってやっての、素性もたやすく聞き出せるかもと思ったものの、

 “だが…。”

 ここではたと気がついたのが、迷子だったら親御さんが探しているかも知れないということ。ここいらでは見ない子ではあるが、この寒空にこうまで簡素な格好をしているとなると、親戚のお家に来ていたか、若しくは車での通りすがりにひょいと勝手に降りてしまったか。手足やお顔は汚れていないので、それほど長くは徘徊していないらしく。じゃあやはり、すぐにも親御さんが駆けつけるかもしれない。だってのに家の中へと引っ張り込んでしまっては、捜索の眸と行き違ってしまいはしないか?

 「…。」

 懐ろにすがりつく柔らかな感触は、何とも儚く頼りなく。今この手を放したら、寒風にさらされて どうにかなってしまわぬか。そうと思うと腕が緩まぬ。このままでは居られぬと、頭じゃ判っているのにね。ああこれが庇護欲というものかと、くすぐったいもの、困ったように実感していたそんなところへ、


  「久蔵殿?」


 あれれぇ? 聞き慣れたお声が、だけど妙な方向から聞こえた。顔を上げれば、自分がそっちからやって来た、駅のある方から向かって来る人影が見えて。中身はさして入ってなさげなトートバッグを肩に掛け、外皮をくるんと剥いたタマネギのように、形のいい頭の丸みをあらわにするほど、きゅうきゅうと髪を引っつめに結った君。真夏の暑い時期を越し、しばらくほどは緩く結ってたその髪を、お風がもてあそぶのでと、外出時はこうやって堅く結うようになると、そういう季節なんだねぇなんて商店街の顔なじみさん方から からかわれてしまう人気者。パールがかった加工の淡い緋色の絹地のそれは、実は勘兵衛からの土産だという、ちょっと気の早いスカジャンを羽織っているが。下の内着はTシャツ一枚なあたり、何か忘れ物があってそれを買い足しに出ていたものか。スリムなラインのチノパンに包まれた長い脚を、ひょいっと衒いなく折ってみせ、久蔵がそうしているのと同じように、身を屈めてくれた彼こそは、

 「…シチ。」
 「早かったんですね。」

 夕飯、これからかかるんですのに。あ、でも今夜は茸と鷄の炊き込みご飯と、ブリの照り焼き、茶わん蒸しだから、あっと言う間ですけれど、と。すっかり下ごしらえは済んでいることを窺わせ、後で判ったことには、ブリに添えるはじかみをうっかりと買い忘れていたらしい。それはともかく。不意に声を掛けて来たのは、家にいると思い込んでた七郎次その人で。夕映えに染まった家路の途中、家人がしゃがみ込んでいたものだから、どうしたのだろと寄って来てくれた。

 「可愛い子ですね、どしましたか?」

 久蔵よりもより詳しい身の彼までも、この界隈じゃあ見かけない子だと言いたいらしく。じゃあやはり、どこかから紛れ込んだ迷子だろうかと、寒いの寒いのとしがみついてた幼子を見下ろしたその視野の中、


 「ちょぉっと貸して下さいな。」

  ………はい?


 そんな言いようをした七郎次が、何を思ったか…やや強引に、腕をスルリとその子の胴へと回すと、ひょいと。誰の了解も得ぬままに、小さな温みを自分の懐ろへと引き取ってしまう。よしよしと背中を撫でてただけの久蔵の構い方が、そんなにも危うく見えたのだろか。だが、それにしたって、その子本人へも何も声を掛けぬままというのは、彼らしくないのではなかろうか。まだまだ歩めぬ赤ん坊じゃあないのだから、おいで〜と声を掛け、お顔を覗き込みという順を踏んでやるべき年頃の子だろうに。そして、そういう小さなことほど案外とこだわっての忘れない彼だというのに?

 「しち?」

 ささやかでも幼子ひとり、その懐ろから温みが去ったのは、結構大きな熱移動。それもあってと相手を見やれば、お尻のあたりを片手に収め、もう片手で背中をゆったりと支えてやって自分の懐ろへ凭れさせるという、さすがは安定した抱えようをしているおっ母様。何より、子供のほうでもすっかりと安心したものか、さっきまではしきりともぞもぞしていたものが、今は大人しくなっており、いい匂いのする胸元へ自分から頬を寄せての落ち着きよう。七郎次自身にも大きめのスカジャンの懐ろにくるまれて、さながら真綿の寝床に迎えられたような心地で居るのかも。ただ、

 「迷子ちゃんですかね。首輪をしてませんものねぇ。」
 「???」

 それか、家の中だけで飼われていたのかな? だとしたら、土地勘なんてないかもですから、自力では帰れないのかも知れませんねと。

 「シチ?」

 何だかさっきから、妙な言いようばかりをしてはいないか? 首輪? 飼う? どんなに小さな子供が相手でも、そして、他には居合わせるものが居なくとも。人としての礼儀は最低限守る彼だったはずなのに?
「し…。」
 一体どうかしたのかと訊き正そうとしたその間合いへ、彼の懐ろへ丸ぁるく収まった当事者さんが、くぁあと欠伸半分、小さなお口を開けた声が挟まったのだが、

  ――― にぃあ、みぃ

 緋色の口許から覗いた純白の歯並びが、そういえば妙に尖っていたような気がして。




   …………………はい?






NEXT


  *受けたのに気を良くして、こちらへも『寵猫抄』の出張です。
   いいかげんにしろ〜〜っとのお声も聞こえてきそうなので、
   さすがにこれで打ち止めといたしますが。

  *ところで、相変わらずにシチさんにべったりの久さんで。
   とうとう部では公認になりつつあるようですね。
   しまいには遠足へ持ってゆくものへも加えそうな勢いです。

   「お主、シチをバナナと同類と思うておるのか。」
   「何でそこで“バナナ”なんですか、勘兵衛様も。」

   相変わらずです、はい。

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